画材用紙・水彩紙「ワトソン」のミューズオンラインショップ

ミューズの人気水彩紙といえば”ホワイトワトソン” !

爽やかな白色が美しい国産水彩紙”ホワイトワトソン”。
絵具の素直な発色に定評があり、おかげさまで多くのお客様から厚い支持をいただいております。

今回は、水彩職人の土井大輔様にご協力いただき、
ホワイトワトソンについてのレビューを書いていただきました!

土井様は、印刷工場の調色技術者としての経験を生かしながら活躍中の「水彩職人」。
X(旧Twitter)を中心に作品を発表し、近年では「透明水彩研究会」も主宰なさるなど、今注目の水彩画家です。

土井大輔様のX(旧Twitter)はこちら↓

土井様の作品がたくさん見られるオンラインショップはこちら↓

今回のテーマ”ホワイトワトソン”は、土井様が20年間ご愛用くださっている水彩紙。
豊富な経験と画材への熱い想いがこもった、読み応え抜群のレビューとなっております。

また、今回のレビュー記事公開を記念してミューズオンラインショップ限定アイテムも数量限定で販売中です♪
記事を読んで「ホワイトワトソンを使ってみたい!」と思ってくださった方は、ぜひチェックしてみてくださいね!

それでは、以下より土井大輔様によるレビューをお楽しみください!!

 

================================================================

 

 

ミューズさんからホワイトワトソンのレビュー記事のご依頼を頂きました。
僕はレビュー記事などはやったことないので想像もできず本当に書けるのか不安はありましたが一番好きな水彩紙なのでついつい引き受けてしまいました(笑)
ホワイトワトソンは初心者の頃から愛用している水彩紙で20年くらいは使ってます。
だからそんな紙のレビューをメーカーさんからのご依頼で書くことになるって夢のようなお話です。とても感慨深いです。
ホワイトワトソンはコットン100%の水彩紙に移行するステップとして使用される方も多いと思いますが(僕もいずれはコットン100%を使おう!って思ってました)でも今はむしろワトソン紙に一般的なコットン紙にはない魅力を感じていて、どうすればそれが伝わるのか僕なりに工夫しながら書きました。
最後までお付合い頂けたら幸せです。

 

ホワイトワトソンの歴史

良い機会なのでホワイトワトソンのバックボーンについてミューズさんに聞いてみました。
なかなか聞けないお話だと思うのでここで紹介したいと思います。

ナチュラル色の水彩紙が主流であった当時、だんだんと真っ白な紙の需要が高まってユーザーからの要望も多くなり、すでに定番の水彩紙として高く評価されていたワトソン紙(ナチュラルワトソン)の白色バージョンとして2002年に発売されました。

ワトソン紙の開発は1960年。
イギリスの水彩紙「ワットマン」を目標として開発されました。
「ワットマンの息子(SON)のような存在」という意味を込めて、WATSON「ワトソン」と命名されたそうです。

ワットマンは確かコットン100%だったと記憶していますがワトソンには木材パルプが混合されています。
海外水彩紙のようなクオリティを求めるなら「コットン100%の水彩紙」の実現が不可欠ではあったものの、開発当時のレート事情ではコットンの輸入コスト的に大変厳しく、木材パルプを混合することで手に取りやすい現実的な価格でありながら海外水彩紙に限りなく近いクオリティを提供することを可能にしたそうです。
当時の海外水彩紙がとても高価な物であったことは言うまでもありません。
こうした先人達の挑戦と努力が昨今の水彩画の勢いを支えてくれているんだと思いました。
そしてここで達成できなかった「コットン100%の国産水彩紙」への想いは後のランプライトの開発へと引き継がれて行きます。

しかしながら僕はこの原価を下げるために配合された木材パルプこそがホワイトワトソンに唯一無二の個性を与えていると思っています。
コットン紙と木材パルプ紙の長所が見事に両方生きているんです。
そんなホワイトワトソンの素敵なところをたくさん紹介したいと思います。

 

ホワイトワトソンの特徴

①コットン繊維を主原料として木材パルプを混合した水彩紙。

木材パルプ100%の紙と比べて滲みやボカシが綺麗にできます。
その上、コットン100%の紙よりリーズナブル。
とてもコスパが良い水彩紙だと思います。

②発色が良い。

水彩紙にはだいたいこう書いてありますが(笑)どう良いか? ですね。
ホワイトワトソンの場合は鮮やかにハッキリと明るく発色します。これに関してはコットン100%の紙よりも良いです。
顔料が紙の繊維に染み込まずにかなり表面に残るため絵具の鮮やかさが落ちません。この発色に関しては木材パルプの影響も少なからずあると僕は思っています。
かなり濃く絵具を入れても色の沈み込みが少ないです。

③白い。

発色の良さにもつながりますが、白色度が高いということはそれだけ使える色域が広くなり表現の幅が広がるということです。
反面、色調のコントロールはナチュラル色の紙に比べて難しいかもしれません。
ホワイトワトソンの白色は紙を白くするために用いる蛍光染料を使用せず自然水のみで仕上げたことによって出る白色だそうです。
なるほど自然な美しい白だと思います。僕はこの紙の素直な発色が大好きです。

④リフティング、洗い出しができる。

本当に絵具がよく落ちます。その分重ね塗りが難しくなりますが慣れれば普通にできますので、これは表現の幅を広げる長所だと思います。

⑤エッジが美しい。

木材パルプの影響もあるのでしょう、ホワイトワトソンは美しくハッキリしたエッジが出ます。
水彩境界線などと言われ嫌われることもありますがこれはむしろ生かすべき長所であると僕は考えます。このエッジと強い発色が合わさることによりとてもハッキリした絵になります。
部分的にエッジを弱め、「ソフトエッジ」と「ハードエッジ」の両方を上手く使えば水彩画の中に印象的なメリハリを作ることができます。

⑥マスキングができる。

これについては賛否両論あるでしょうね(笑)破れるという話もよく聞きますが僕はできると思います。
確かにコットン100%の紙に比べたら破れやすいと思いますがやり方次第かなと思うのでこれについては後ほど作例と共に解説します。

⑦国産。

これは僕にはとても重要なポイントです。日本で生まれ育った水彩画家としてはやはり国産の画材を応援したい。
歴史の部分で紹介したようなメーカーの挑戦を引き継ぎ、製品を作品にして世に出していくことが僕たち作家の役目であるとも思います。この記事もそんな気持ちで書いてます。
身近にメーカーがいてくれるのはありがたいことだと思うし、僕も印刷工場で働いて生計を立てているので国産品への思い入れが強いです。がんばれ日本!って思いますよ。日本の画材は品質も外国産に負けてないです。

 

ホワイトワトソンの商品たち

ホワイトワトソンは発売して20年と歴史も長いのでその商品ラインナップが豊富なことも魅力の一つです。
僕なりの使い分け方などと共に紹介してみようかなと思います。

ブロック

四辺全てを糊で固めたスケッチブック。水張りしなくても波打ちを抑えて描くことができます。
300gの超特厚。水や絵具をたくさん使うときは厚い紙が良いです。
波打ちしにくいだけではなく水や絵具をしっかり受け止めてくれるので薄い紙より綺麗に描けます。
僕は本格的な作品を描く時は必ずこれを使います。
外国の技法書には600g!!の紙を薦めてるものもあったり、とにかく水彩紙は厚い方が良いんです。
SM、F2、F4、F6、F8、F10のサイズがあります。

 

スケッチブック(リングタイプ)

300gのツインリングブック(左)と239gのリンブブック(右)があります。
300gはブロックと同じ本格派ですが239gでも十分しっかりした描き込みができます。
ホワイトワトソンは乾燥が早いので野外スケッチや早描きにも適しているし、あまり時間がないけど何か描きたい時にも重宝します。
なぜかブロックよりも思い切って使える(笑) 描き終わったスケッチブックは自分の作品集みたいで素敵ですよ。
ツインリングはF4、F6
リングはSM、F3、F4、F6、F8、F10があります。

 

PDパッド、A4サイズシートパック

▼PDパッド
190gと薄い紙のスケッチパッドです。
本格的な制作には少々頼りないですがリーズナブルなので試作やとりあえずイメージを描きとめておきたい時などに躊躇なく使えて良いです。
写真の花火の絵は昨年夏のキャンペーン用に描いたものですが、頼りないとはいえこのくらい描き込むこともできます。

▼A4サイズシートパック
気軽に試したい方にはPDパッドよりもこちらがオススメ。
300gなので本気で描けますよ。やはり水彩紙は厚い方が良いんです。
かといって300gのポストカードでは小さいし、昨年発売されたばかりですが画期的な商品だと思います。
※余談ですがこの商品のPOPに僕の作品を使って頂いてます(笑)

 

ポストカード、色紙

▼ポストカード
300gと190gがあります。
ポストカードは本当に気軽に使えます。300gがあるのが本当にありがたい。300gはブロックと同じ紙を使っているので使用感もそのまま。だから試し塗りや試作はもちろん作品にも使います。190gの立場がないですよね(笑)でも300gを気軽に使えるのは大きいんですよ。ごめんね190g。絶対に300gがオススメですね。価格もお手頃だし。300gの方が色も綺麗に乗りますよ。

▼色紙
色紙は使ったことがないんですが、誰かにプレゼントする時に便利かなぁと思いました。そのまま飾れますし、普通の紙に描いて一枚渡すよりもプレゼント感もありますよね。普通の紙に描いたものも額装して渡せよって話ですけど(笑)そこまででもない場面ってあるでしょ?そんな時に便利だと思う。

 

ウェイビーポストカード(Wavy Post Card)

新商品らしいです。
切手の形のポストカード。それだけでワクワクしますよね。
紙の形って結構作品のイメージに影響するんですよ。
僕も試しに1枚描いてみようと思ったんですが、想像力が膨らんで何枚も描いてしまいました。
旅の思い出を描くのにピッタリかも。
バックパッカーで訪れた思い出の場所を描きました。
どうですか? 旅情緒を感じるでしょ?(笑)
旅先で描いて誰かに送りたいですね。

この他にも八切判〜四六判などのバラ紙は画材店等で購入することもできますし、F40号、F50号、F60号にカットした紙や大きなロール紙もあります。

 

ホワイトワトソンを生かす技法を紹介

水彩技法や描き方は本当に様々なものがあり全部は紹介できないですが、ここでは特に僕なりのホワイトワトソンの生かし方を少し紹介したいと思います。

wet in wet

紙に水または多めの水で溶いた絵具を塗りそれが乾く前に次の色を追加して滲ませる技法。特に水面や空を描く時に有効。
追加する絵具は最初の絵具よりも濃く溶いて、何度も筆でいじらずできるだけ水に任せるのがコツ。
ホワイトワトソンの美しい滲みを生かせる技法で僕も多用します。
この技法のみで1作品完成することもあります。

 

重ね塗り、塗り残し


下の色が動きやすい紙ではありますが、上に乗せる色を下の色より濃く溶けば綺麗に重ねられます。さっと一度で塗るのがコツ。
このように複雑に重ねて描くことも可能です。
ただし薄い色を何度も重ねる場合は難易度も上がります。
基本通り順番に濃くして行けば重ねやすいです。

この白い紫陽花は紙の白を塗り残して描いてます。
ホワイトワトソンはとても美しい白色なので紙の色を有効に使うと良いです。

ホワイトワトソンで綺麗に色を塗るコツはジャストな水分量で絵具を溶くことと何度も筆を往復させないことです。
これは重ね塗りの時も同じ。一度定着しかかった顔料を再び剥がしてしまうと汚く定着する原因になります。

 

洗い出し、リフティング

一度塗った色を洗い落とせるのは、失敗を修正したり暗くしてしまった部分を再び明るくしたりと色々便利なんですが、それだけでは勿体無い!
絵具が落ちる特性を最大限に生かせば驚くほど水彩画の表現の幅が広がります。

この作品の地面は一度塗った絵具を洗い落として乾かした後で再び色を塗りました。
繊維の中にわずかに残った顔料や洗うことで乱れた紙面により質感が変わりアスファルトの重さが表現されています。
ウルトラマリンの粒状化の効果も使ってます。
一度で塗った草木と比べれば質感の違いが分かると思います。

綺麗に描くばかりが絵ではないのです。
様々な方法を使って画面の中に「差」を生み出すことが大切で、部分的に敢えて乱すことも表現手法の一つだと思います。
洗って再び塗る方法は混色では得られない微妙なニュアンスを生み出してくれます。
絵具は混色すると反射率が落ちて光を感じにくくなります。
混色せずに色に変化をつけられる方法はとても貴重だと思います。
草むらなども一度塗りの段階で綺麗すぎて迫力がないと感じたら洗い落としてさらに重ねて草の生命力を表現したりします。
最近では「透明水彩は修正できない」「一発で描くもの」というような考え方が一般的のようですが、それは紙や技法のトレンドにも左右されるのかなぁと思っています。
一昔前の技法書では洗って別のモチーフを追加したり、色を直したり、洗うこと前提で描き進めたり、という方法が普通に紹介されていましたし、僕が持っている外国の水彩画家の本には豚毛の筆で絵具を落として別のモチーフを追加する方法が紹介されています。
とはいえ一度で決めた色面の美しさには僕もこだわっています。
技法を的確に使い分けることでさらに深い水彩表現を手に入れることができると信じています。

 

ソフトエッジ、ハードエッジ

奥にある3本の木の描き分けが分かりやすいと思います。
ボカシを効かせた「ソフトエッジ」(左)
あえてエッジを強く出すように着色した「ハードエッジ」(右)
そしてさらに弱く着色した真ん中。
これだけの描き分けでメリハリや距離感も表現できます。
ホワイトワトソンの強く美しいエッジはこうして作品に生きてきます。
実際に見えているように描くよりも実際に見えている感覚をどう絵として表現するかが大切です。

 

ホワイトワトソン描き比べ

ホワイトワトソン、ナチュラルワトソン、ランプライトの3つの紙で描き比べてみました。
特に100%コットンで作られているランプライトとの質感の違いに注目してもらいたいです。

できるだけ違いが分かりやすいように3種の紙を一枚の写真で撮影しました。
ホワイトワトソンはもちろん白色度が高い。ここで僕が注目するのはランプライト。
暖色の紙色と言われますが僕の感覚ではそれほど暖色ではなくむしろ極薄い中間色のグレーに見えます。
実際の使用感もそれほど紙色は気にならずむしろ使いやすい抑制が効いた白色だと思います。
暖色が映えるのはもちろん寒色にも適度な暖かみが加わり素晴らしい発色をします。
これを踏まえてホワイトワトソンとランプライトはほぼ同じ色の絵具を使用しました。
ランプライトの色域にも注目してもらいたいです。
一方、ナチュラルワトソンは明らかに黄色い。その紙色を最大限に生かすために使用する色も変更しました。

上からホワイトワトソン、ランプライト、ナチュラルワトソン。

ホワイトワトソンは明るく鮮やかにハッキリと発色する。
ワトソン特有の強く美しいエッジも手伝って絵の印象がとてもハッキリして強くなる。
ランプライトはコットン紙らしい美しい滲みとボカし、そしてこの紙特有の強いサイジングが独特の発光したような効果を作る。
そしてわずかな紙の色味が全体的に暖色を帯びた輝きを作り出して穏やかな日差しを演出してくれる。
ランプライトは柔らかい印象になると言われるのはこのためであると思います。
一方、ホワイトワトソンはその白色度の高さからとてもキレの良い発色になり、まさに真夏の強い日差しの印象そのもの。

ナチュラルワトソンはその黄色い紙色を生かして暖色を多く使い秋の風景の趣になりました。

ホワイトワトソンとナチュラルワトソンは紙の色にかなりの差がありますが同じような配色では描けないかというとそうでもないんです。
ここは絵の面白いところで、色は一つの画面の中で相対的に見るものですから同じ題材を同じような色で描いても意外とそこまでの差が出ないんです。

同じ題材を両紙に描いた絵をもう一つ載せます。
この2作品はほぼ同じ色を使っています。

ホワイトワトソンは紙の白と着色面の色差が大きくなり色もスッキリするので絵がハッキリした印象になりますね(その特徴を考えてハッキリさせるように描いている部分もありますが)。。。
こういったある種微妙とも言えるような違いを考えて紙を使い分けます。
経験を積んでくるとこういう違いが気になるものです。
ナチュラルワトソンでは紙色に合わせて若干赤味に振っています。
僕は赤をたくさん使いたい時はナチュラルワトソンを選びます。

 

上からナチュラルワトソン、ホワイトワトソン。

どんな道具も最大限に効果を発揮しようと思ったらその特性に寄り添うのが一番良いと思います。
紙も優劣で考えるのではなくその紙の特性をどう生かすか?そこに注目すると自然と答えが見つかります。
そうやって題材ごとに使い分けるのが良いと思っています。

ランドスケープホワイトワトソン

認知度がイマイチなので是非取り上げて欲しいと、この記事の担当者さんからの切なる願い(笑)


僕は以前から存在は知っていましたし興味はあったのですが、僕が普段利用する画材屋さんに置いてない……確かに認知度がイマイチなのかなぁと思うのでここは全力でアピールしてみます。
F4とF6サイズの長辺を元に黄金比率(1:1.618)で算出した横長の紙を使用したスケッチブック。
黄金比率なだけあって美しい長方形でしょ? 人が最も美しいと感じるバランスです。
僕もちょっと勉強はしたんですけどね。数学苦手なのでめんどくさくなってやめちゃいました(笑)
だから最初からそのサイズに切ってあるのがありがたい。

風景を描いていると上下を切り落としたい題材もたくさんあるんですが普通のFサイズを切って使うのもなんか勿体ないんですよね。
だからこれはとても便利だと思うんです。
紙の形が変われば生まれてくる発想も変わるし、マンネリ化も防げるし。このスケッチブックで作例を作ろうって考えているだけでアイデアが止まらなくなりました。ほんとに。

空や風景の広がりを描きたい時は前景が要らないなぁと思うことも多いのでこのサイズなら無理なく横の流れだけに集中できます(左上)
そして縦に使うのも効果的。高さと奥行きだけに絞った構図になりますね(右)鉄塔などを描いても面白そうです。
構図は極端にすると良い結果を生んでくれることもよくあるんです。
最初から紙のサイズが限定的なのはアイデアを絞るのにとても有効だと思いました。
そして横長の画面は風景だけではなく花や植物にもよく合います。
今回はサザンカ(左下)を描きましたが、アサガオなども楽しく描けそうです。縦にしてヒマワリとかね。
黄金比率なので何を描いてもピタッと心地良く収まるんですよ。
とにかく想像力が膨らむスケッチブックです。
これは是非みなさんも使ってみてください。とても楽しいスケッチになると思いますよ。

 

マスキングについて

ホワイトワトソンでのマスキングは紙が破れてしまうという意見をよく聞きます。
僕も決してマスキングに強い紙ではないとは思います。
ですが僕の場合は20年くらい使ってますが派手に破れてしまったことは一度しかないんです。
大切なのはマスキングにそれほど強くない紙であることを意識して使用すること。
剥がす時に擦り過ぎないようにしたり紙の繊維の方向によって剥けやすい方向があるかと思うので剥がれそうなら逆方向から試したりそういう気遣いも必要になってきます。

そもそもそこまでしてマスキングを使う必要があるのか? マスキングに強い他の紙を使えば良いんじゃないか? そんな疑問があると思います。
それがリスクを冒してもこの紙でマスキングを使いたい理由があるんです。それを作例を通して解説します。


下描きしてマスキングしたところ。色が付いている部分がマスキングインク。
今回使ったのはホルベインのマスキングインクです。
絵皿に出して少し水で薄めます。水で薄めて粘着力を落とすことで剥がす時に紙が破れるリスクを軽減します。

マスキングが乾いたら白く残したい上の部分を避けて水を塗って、まずは暖色。
イエローオーカーとキナクリドンレッドを光の流れを意識しながらランダムに入れます。
水はきっちり塗る必要はありません。適当にサッと塗ってサッと絵具を入れる。スピードが大切です。

そして乾く前にさらに寒色のグレーを入れます。
先に入れた暖色を塗りつぶしてしまわないように、プルシャンブルーにバーントシェンナとローズマダーを少々混ぜて作ったブルーグレイを塗ります。
下の方はあえてプルシャンブルーを強く出して色味に変化をつけます。

完全に乾燥してからマスキングを剥がします。
僕はホワイトワトソンの場合はラバークリーナーなどは使わずに指で擦って剥がします。
今の所はこの方法が一番紙を傷めずにマスキングを剥がせると思っています。
ホルベインのマスキングインクはある程度まとまって剥がれるので指で剥がしても細かい剥がし残しが紙の繊維に残ってしまうことも少ないです。
シュミンケのマスキングインクだと結構細かいカスが残るのでラバークリーナーを使わざるをえない場合もあります。

 

マスキングを剥がしたら草の茎の着色です。
先にイエローオーカーを塗っておいて乾く前にキナクリドンレッド、ローズマダー、プルシャンブルーなどを入れて草の立体感を表現します。


上の2枚の写真。これは今回最も注目して欲しい部分です。
一番右の草だけはマスキングせずに空の上に重ね塗り、そして茎の下の方は水を塗って絵具を剥がす(リフティング)という技術で描きました。
これによってマスクキングで描いた他の2本の草とエッジや白色度の自然な差ができます。
右の草は手前にあるのにエッジがボケているため鑑賞者の視線は自然とトンボが止まった真ん中の草(この作品の主題)に向かいます。
さらに奥行きや質感の差なども生まれて画面が活気付くんです。

3本の草を全てマスキングで描いてしまうと草の表現が単調になるばかりかマスキングが作るエッジの不自然さも目立ってしまいます。
このように同じような白抜き表現でもリフトができることによってその表現の幅が広がります。
これはあえてホワイトワトソンでマスキングを使いたい理由の1つです。この性質を上手く使えば白抜きのバリエーションだけで奥行きが作れてしまうのです。
リフトができればマスキングのエッジの不自然さを緩和することも簡単です。
エッジの強さはポイントを絞って使えば強い武器になります。
しかし作品のそこら中にマスキングの強いエッジがあっては落ち着きのない絵になるだけです。
コットン100%の紙でもリフティングが出来るものもありますが、ホワイトワトソンの方がエッジが強いので絵がハッキリするんです。
僕はそこがとても気に入っています。

 

ホワイトワトソンには「ペーパーカラー修正絵具」というものがあります。
ホワイトワトソンの紙の色に合わせて調色した白のアクリル絵具です。
僕は印刷会社で調色の仕事をしているのですが白を調色するのはとっても難しいんです。
白は白なのでそれを微調整して思い通りの白色にするのは職人技です。
しかしこの絵具は真っ白と比べると紙に塗った時に目立たないように調整されている優れもの。今回はこれも使ってみます。
右の草の茎にハイライトをドライブラシの質感を加えながら追加しました。
マスキングでは表現しにくいニュアンスなのでまた一つ新たな「差」が生まれました。
紙の色に合わせて調整されているので悪目立ちせず主役を邪魔しません。
逆にハイライトを目立たせたい時はガッシュの白などを使うと良いでしょう。

ちなみに「ペーパーカラー修正絵具」はアクリル絵具なので水彩用のパレットに出して使うのはオススメしません。
写真のように陶器の絵皿(洗いやすい)や使い捨てのプラスチック容器(僕はヨーグルトの蓋を時々使います)などに出して使うと良いでしょう。
水彩用のパレットに出すと固まって取れなくなっちゃいます。

そしてトンボと草を描き込んで完成!!

シンプルな題材だからこそマスキングとリフティング、そして白い絵具での描き起こしという3つの白の「差」が生きてくるんです。
トンボの美しい羽はマスキングの強いエッジを残して繊細なモチーフながらしっかりと主役を演じてもらってます。

 

ホワイトワトソンに描いた作品

ホワイトワトソンに描いた作品を簡単な解説と共に紹介します。

春〜「思い出の遊歩道」
この作品は細かく下描きせずに絵具を思い切って使って描きました。
こういう作品こそ「ザ・ホワイトワトソン」という表現だとも思います。
ホワイトワトソンはコットン紙と比べて筆がよく走るんです。
乾燥も早いので自然と制作スピードが上がり、勢いのある絵に仕上がりやすいです。
ホワイトワトソンならではの強く鮮やかな発色、勢いよく活気のある画面。
絵を描く醍醐味が詰まった作品です。

 

夏〜「夏の彩」
白鷺をマスキングしておいてwet in wetで一気に水面を描きました。
手前(下)にある葉っぱは暗い水面の色を丁寧に葉っぱの形にリフトした後で緑色を塗って描いています。
こうして一度暗くした部分に別の物を追加できるのもホワイトワトソンの利点です。
こういう草はマスキングで描くよりもリフトを使ったほうが自然な描写になると思います。
そして純白の紙色が眩い真夏の雰囲気を表現してくれています。

 

秋〜「陽光の輝き」
夕日を受けて輝く街並みと川面の風景。
こういう風景は実はホワイトワトソンに最適な題材だと思います。他の紙ではこうは行きません。順光の風景は透明水彩で描くのが難しいんです。この作品ではホワイトワトソンのハッキリした明るい発色を生かして「色」によって光を表現しています。wet in wetを使って川面の映り込みや遠景の大気(山肌や空)を描きました。

 

冬〜「雪の日の遊歩道」
春の「思い出の遊歩道」と同じ場所です。
ホワイトワトソンの美しい白色は雪景色にもピッタリ。
こういう描写は特に紙の白さが生きてきます。紙の白は上手く使えばそれだけで絵になるんです。夏の輝きとは違った冬の冴えた光を表現できたと思います。

 

厚塗りで描いた夕日。
おまけです(笑)
4年くらい前に描いた絵ですが、こういうのも描けますよって作例です。ホワイトワトソンは絵具の顔料を多く表面に残すので、ガッシュなどでの厚塗りにも向いているんです。油絵みたいな濃厚な重ね塗りができますよ。この絵は透明水彩にガッシュの白を混ぜて不透明にして描きました。最近はこういうのは描かないですが、透明水彩の絵に部分的に厚塗りを取り入れたりしても面白い効果になるんじゃないかと思っています。

 

最後に

最後までお付合い頂きありがとうございました。
僕は画材の中でも特に紙に強いこだわりがあります。
どんな紙にもそれぞれに魅力があり深く研究して行くと、そこには優劣を超えた紙の個性の世界が広がっています。

僕は水彩紙はそれ自体が美しい芸術品だと思っています。
水彩画はどんな技法や絵具を使っても最終的な作品の質感は紙の性質に依存します。
水彩画における紙は単なる支持体ではなく作品の一部なのです。
美しい作品作りの第一歩は題材に対して適切な紙を選ぶことです。
コットン100%の紙を選べば綺麗に描ける確率も上がるでしょう。
それでも僕はホワイトワトソンで描いた作品からコットン100%の紙に描いた作品にはない魅力を感じていて、それが何なのかずっと研究していました。
今回このような記事を執筆する機会を頂き、中途半端なものは出せないとさらに研究を深めこの紙が持つ特性に確信を持つことができました。
それは時にコットン100%の紙を凌ぐ作品を生み出してくれます。
そして何より僕はこの紙にとても大きな可能性を感じています。
自由度が高い紙ですから、ホワイトワトソンに描くことを想像するだけで様々なアイデアを与えてくれる大切なパートナーです。
いつかこの素晴らしい日本産の紙に描く水彩画家として世界で活躍するのが僕の夢。
だから私は、ホワイトワトソン。

 

========================================

 

<information>

土井大輔様も所属している「透明水彩研究会」の展示会が銀座で開催中です。
記念すべき第一回。ハイレベルな水彩作家様たちの原画を見られるチャンスです。
ホワイトワトソンをはじめとしたミューズの水彩紙をフューチャーした企画展示コーナーもございます。
ぜひ足をお運びください!

 開催期間●2024年4月3日(水)~4月8日(月)
 時間●11:00~19:00(初日は12:00から/最終日は17:00まで)
 場所●銀座ミレージャギャラリー

 

ホワイトワトソン関連の商品はこちらからどうぞ!